皆さまよくご存じの『正信 偈』の最初の二行です。『正 信偈』は宗祖親鸞聖人がお作 りなされたものに、第8代宗 主蓮如上人が節をつけ開版 (印刷)して門徒に広められ て以来、浄土真宗門徒の日常 のお勤めとなって、ご本山を はじめ全国の寺院・門徒宅で 朝夕勤められています。 ご本山のお晨朝にお参りを いたしますと、普段はそれぞ れ各地のお国言葉を話されて いる方々のお声がピタッとそ ろい、ご門主さまの調声に続 いて正信偈のお勤めが始まる のは気持ちのよいものです。 これが浄土真宗門徒の朝の日 常です。 ところで、日常つまり常 つね に 対する反対の意味を持つ言葉 に「特別」があります。私た ちは、常と特別とを比べた場 合、どちらかというと特別な ことを優れた素晴らしいこと と考えるのではないでしょう か。 例えば常備菜というと、ひ じきの煮物やきんぴらごぼ う、佃煮など、いつでも食卓 に並んでいるありふれたおか ずのことです。それに比べて 特別な時にいただくご馳走は 楽しみなものです。 また常備薬というのは家の 救急箱に入っている、薬局で 買える医薬品のことですが、 それよりは病院でお医者さん から処方してもらった薬の方 を、より効き目がある優れた ものと考えています。 もちろん特別なご馳走も、 特別に処方された薬も素晴ら しいものですが、常にあるも のの確かさ素晴らしさという ものを忘れているのではない でしょうか。 以前、町内にある他宗のお 寺で、普段は公開されていな い秘仏が年ぶりにご開帳に なりました。めったに出会わ せていただけない仏さまに特 別にお目に掛かれるというこ とで、大層賑わったとのこと でした。 その時に考えたことは、 年に一度だけお出ましになる その仏さまは、いったい私に とってどういう存在なのだろ うということでした。明日を も知れない無常の命を生きる 私は、その仏さまには一度も 会えないかもしれません。そ う考えますと一回限りの「特 別」よりも、継続し続ける 「常」という確かさ素晴らし さによってこそ、安心がいた だけるのではないでしょう か。 『正信偈』の最初の二行に 戻ります。「帰命」とは、帰 る命とありますが、ここでは 命令に帰すると読んでくださ い。命に帰す、つまり仰せに 従うということです。誰の仰 せに従うのか。「無量」=は かることのできない、「寿」 は寿命、「如来」とは仏で す。はかることのできないほ どの永い永い命をそなえられ た仏さまの仰せに従うという ことです。 「南無」は南が無いと書い てありますが、発音にあわせ ただけの漢字に意 味はありません。 ナモという音で す。インドの挨拶 はナマステです が、「あなたを敬 います」という意 味だそうです。こ れと同じでナモも また、「あなたを 敬い仰せの通りに いたします」とい うこと。つまり帰 無量寿如来に帰命し、 不可思議光に南無したてまつる 往復書簡という表現形態 に、どのような印象を抱く でしょうか。他人の手紙を 覗き見るような、背徳的な 魅惑に突き動かされて本書 を手に取りましたが、これ はそういう欲を満たす本で はありません。二人の宗教 家がテーマを提示して、多 くの引用を駆使しながら思 索を深めていくという構成 です。 引用元は多岐に渡りま す。時代は古代から現代。 立場は宗教家・作家・科学 者その他にもさまざま。詩 歌や戯曲、落語という娯楽 作品からも言葉が選出され ます。 仏教徒とキリスト教徒と いう大まかなくくりで紹介 するのはふさわしくないか もしれません。なぜなら両 時間と労力を費やしても 交じり合わないかなしみ 宗教の本質 者の共通項を探るとか、共 感を得ることを目的とはし ていないだろうからです。 もちろん三年半(途切れ た期間あり)にわたったと いう往復書簡の中にはそれ らしい部分もありますが、 両者の間には目には見えな い、けれど確かに隔てる何 かが存在しているように感 じられるのです。それが何 かを言葉にするのは、きっ と無粋というものなのでし ょう。 理性的な大人二人の、決 して踏み込まない領域を互 いに尊重し合う様子が感じ られる一冊です。多くの引 用元にも興味を持って調べ てみるきっかけにもなって くれるのではないでしょう か。 命と南無とは同じ意味です。 「不可思議」とは思いも及ば ない、「光」とは照らすとい うこと。思いも及ばない広い 広い世界を照らしつくす仏さ まに従うということです。 永い永い命とは、会えない 時間が無いということ、つま り「いつでも」。広く遍く照 らすとは、会えない場所が無 いということ、つまり「どこ でも」です。いつでもどこで ものおはたらきとは「今こ こ」のおはたらきです。それ を一回きりの特別ではない 「常」といただきます。常じょう 照 しょう 我 が のおはたらき、救いの 確かさを喜ばせていただき、 お念仏申しましょう。 33 33 「特別」より「常」のおはたらき 講談社 釈徹宗・若松英輔著 1,210円(税込) 釋迦 浩爾 しゃ か こう じ 滋賀県 高島市 浄願寺( ( ⑵ 2026(令和8)年6月16日 名 古 屋 西 別 院 (第194号)
RkJQdWJsaXNoZXIy NDY3NTA=